フィギュアやクレイアート制作の粘土について調べると、「ポリマークレイ」という粘土が出てくるけど、これは何?
ポリマークレイと樹脂粘土って何が違うの?
油粘土や紙粘土など、一般的に知られている粘土とは異なり、ポリマークレイは用途的にも価格帯的にも知る人ぞ知る粘土といえるでしょう。
ここでは、ポリマークレイの成分や特徴から、樹脂粘土などの他の粘土との違いについても説明していきます。
ポリマークレイとは
ポリマークレイは塩化ビニル樹脂を主成分とした油性の粘土で、加熱することによって硬化するタイプの粘土です。
グレーやベージュなどの単色のタイプでフィギュアの原型を作成したり、豊富なカラーバリエーションを使ってアート作品やアクセサリーを制作したりする用途に使用されます。
フィギュア製作では、安価で使い勝手の良い石粉粘土を使用した制作に慣れてきたら、次のステップとして選ばれる素材の位置づけの粘土です。
硬化時間が圧倒的に短縮でき、かつ熱をかけなければ固まらないので、石粉粘土などの自然乾燥型の粘土よりも作り込みに適した粘土といえるでしょう。
フィギュア製作ではポリフォーム社スーパースカルピーのグレー色がよく使われます。
また、後者のカラーバリエーション豊富なポリマークレイでは、制作した造形物そのものが作品となる1点物の作品制作に向いています。
こちらの用途では、ステッドラー社のFIMOシリーズ、Van Aken社のケイトポリクレイ、サーニット社のサーニット、ビバデコール社のPardo、ポリフォーム社のPremoとスカルピーⅢなど多くの海外メーカー製のものがあります。
日本国内でよく目にするものはFIMOシリーズで、カラーバリエーションに加え、半透明や御影石調のバリエーションを持つFIMOエフェクトや、レザー調に仕上がるFIMOレザーなど、作品の幅を広げる製品が揃っているので、まず迷ったらFIMOがおすすめです。
エフェクトは特にいらないという方で、仕上がりの綺麗さにこだわりたい場合はケイトポリクレイ、幅広いカラーバリエーションで作品を作りたい場合はサーニットを選ぶと良いと思います。
使用感が硬くてどうにも使いにくい場合は、蜜蝋が配合されているパルドを使用すれば、体温で次第に柔らかくなり、比較的力を使わずに使える上、表面も滑らかに仕上がるので、おすすめです。
実際にどのような作品が作られているかより詳しく知りたい場合や、ポリマークレイの講座や教室を受けてみたい場合は、日本ポリマークレイ協会というアート・手芸向けの協会があるので、そちらのサイトも参考にしていただければと思います。
ポリマークレイのメリット・デメリット
ポリマークレイは成分上、日本で親しまれている自然乾燥型の紙粘土や軽量粘土とは違った特徴がみられます。
特に特徴的なメリット・デメリットについて、解説していきます。
ポリマークレイのメリット
まず最も特徴的なのは、自由に硬化できる点です。
紙粘土などの自然硬化型粘土やエポキシ粘土などの反応硬化型粘土は、硬化させるために数時間~数日待たなくてはいけません。
これに対して、ポリマークレイは、固めたいときにオーブンで加熱すれば20~30分程度で硬化するので、手回しが非常に良いです。
次に、硬化後に耐水性を持つ点もメリットとして挙げられます。
樹脂が主成分の油性粘土の為、水がしみ込んだり、水で溶けたりする心配がありません。その為、汗などの少量の水分に触れる機会のあるアクセサリーや、水の中に作品を沈めるスノードームなどの作品にも適しているといえます。
また、硬化前後の収縮率が低いという点もメリットとして挙げられます。
水性の粘土は、粘土の中の水が蒸発することで固まるため、どうしても水が抜けた分の収縮が数%~十数%発生します。
これに対し、ポリマークレイは、特定の成分を抜いて固めるのではなく、液相の油成分を樹脂の中に閉じ込める形で硬化するので、硬化前後で成分があまり減らず、硬化前後の収縮も少なくなります。
この特徴は造形作品全般に有用ですが、特に細かい造形の作品やフィギュア製作などで硬化前後の寸法や細部の印象が変わらないという点で特に重宝する特徴です。
ポリマークレイのデメリット
次にデメリットについても上げていきます。
まずは硬さが一つのデメリットになります。
パッケージされた状態ではほとんど変形しないほど硬く、少量ずつ根気よく練っていくと使いやすい硬さになっていきます。
それでも握力の弱い方には少し骨の折れる作業なので、ポリマークレイをこねるためのクレイミキサーや少量混ぜると柔らかくなるクレイソフナーなどを使用すると良いです。
ただ、柔らかくなりすぎた場合も調整しにくい為、自分の好みや作品に適した硬さにするにはある程度慣れが必要になってきます。
次に、仕上げ用のニスなどを選ぶ傾向があるという点です。
ポリマークレイに含まれる油分は樹脂を柔らかくする性質があるため、汎用のニスやメーカーが異なるニスを使用すると柔らかくなったり、べたついたりしてしまう場合があります。
これを避けるために、基本的には使用したメーカーのニスを使用することで避けることができます。
また、作品寿命があまり長くないという点も挙げられます。
主成分である塩化ビニル樹脂は、熱や光に弱く、直射日光が当たる場所に長時間置いたり、固めてから長い時間がたつと、劣化してひび割れたりする傾向にあります。
室内向けの作品を前提に制作するか、数年スパンで長く使用する前提の作品には他の素材を使用することをお勧めします。
フィギュア製作などの場合は、ポリマークレイで制作した原型をシリコンなどで型を取って、レジンキャストで複製して素材を置き換えるのが主流です。
最後に、既存の絵具を使用しにくいという点もデメリットとして挙げられます。
粘土としてのカラーバリエーションは豊富ですが、既存の絵具のカラーバリエーションには劣ります。
どうしてもこの色が使いたいという場合も、粘土のバリエーションの中から選ぶことになります。
一部油絵具を混ぜて使用できるという場合もありますが、最大のメリットである硬化性が損なわれ、油絵具が固まるまで24時間程度待つ必要があるので、あくまで奥の手になります。
ポリマークレイと他の粘土の違い
ポリマークレイは、主として海外でメジャーな粘土であったため、日本国内では近い名称の粘土がすでにあったり、ポリマークレイという名称とは違った名称で呼ばれていたりすることがあります。
ここではよく混同されやすい名前の粘土との違いについて解説していきます。
ポリマークレイと樹脂粘土の違い
ポリマーとは高分子のことで、合成樹脂のことを指す場面の多い言葉です。
その為、ポリマークレイ=樹脂粘土と思われやすいですが、日本国内ではポリマークレイと樹脂粘土は明確に異なるものを指します。
ポリマークレイはこれまで説明した通り、塩化ビニルを主成分とした油性の加熱硬化型の粘土のことを言いますが、日本の樹脂粘土は酢酸ビニル系の樹脂を主成分とした水性の自然乾燥型の粘土のことを指すことがほとんどです。
日本の樹脂粘土は国際的な名称では「コールドポーセリン」という粘土が成分や用途上近い粘土になります。
日本は水性の粘土が主流で、ポリマークレイの普及がそこまででもないことから、樹脂粘土≒コールドポーセリンというのが一般的ですが、世界的にはポリマークレイの方がコールドポーセリンよりも主流となっており、日本の独特な呼び名とも言えます。
ポリマークレイとオーブン粘土の違い
オーブン粘土とは、オーブンで熱せられる120~200℃程度の温度帯で固めることのできる加熱硬化型の粘土のことを言います。
オーブン粘土という名称は総称的な呼び方で、日本ではこのオーブン粘土の中にポリマークレイとオーブン陶土の2種類の粘土が含まれます。
ポリマークレイは塩化ビニルを主成分としており、作品が平滑な表面に仕上がります。
これに対し、オーブン陶土の主成分は土で、少量のプラスチック粉末が含まれており、加熱されるとプラスチック粉末が溶解して土粒子の間に流れ込み、加熱が終わると固体化して作品が固まる仕組みとなっています。
どちらもオーブン粘土と呼ばれることのある粘土ですが、ジャンル的にオーブン陶土が使われにくいフィギュアの原型制作などの分野ではポリマークレイ=オーブン粘土という認識で使われる場面も多い言葉になります。
それぞれの違いについてはより詳しく記事を書いておりますので、こちらも参考にしてみてください。
ポリマークレイについて良くある疑問
ポリマークレイは、日本でなじみのある自然乾燥型の粘土とは異なり、加熱して硬化するなじみの薄い粘土ということもあり、いろいろな疑問が出てくるかと思います。
ここでは、ポリマークレイを使う前後でよく出てくる疑問について解説していきます。
ポリマークレイを焼くのに食品に使うオーブンを使って平気?
基本的には使用しても問題ありません。
ただ、ポリマークレイには塩化ビニルや食品用途でない油分を含む為、ポリマークレイを頻繁に使用するようになったらポリマークレイを焼くためのオーブンを購入したほうが良いと思います。
また、加熱にオーブントースターを使用する場合、作品と熱源が近いと、熱源に近いところだけ焦げてしまうことがあります。
こういった場合は、通常の使用の範囲とは違った燃焼生成物が発生する可能性がありますので、直ちに体調が悪くなるということは考えにくいですが、使用後にアルコールティッシュなどでオーブン内部を綺麗にしてから食品用に使用した方が無難です。
ポリマークレイに毒性はある?
ポリマークレイ自体は無害で、素手で手に触れたりしても基本的には問題ありません。
また、常温の状態では油分の揮発の可能性も低いので、普通に粘土として使用して問題ないです。
注意点として、オーブンで加熱して焦げてしまった場合などに発生する煙などは積極的に吸うことは避けた方が良いでしょう。
万が一、加熱時に作品を焦がしてしまった場合は、作品がしっかり冷めるまで室内をよく換気するか、作品を外に置いて室内の空気を入れ替えるなどの対応を取りましょう。
ただ、こういった場合でも煙を吸ってすぐに体に害があるというものでもありませんので、落ち着いて対応するようにしてください。
ポリマークレイを焦がさないようにするコツは?
ポリマークレイをしっかり固めるためには、作品の中まで加熱する必要があります。
高温にして短時間で加熱すると、どうしても表面が熱くなりすぎてしまいがちですので、粘土に合った温度帯の低温域~中温域くらいの温度で規定時間加熱するとしっかり加熱できます。
小さめのオーブントースターを使用する場合、どうしてもヒーターと作品の距離が近くなりがちで、加熱の際ヒーターの付近が熱くなり過ぎてしまうことがあります。
こういった場合は、ヒーターと作品が直接触れないように金属箔等で覆うと良いです。
熱伝導が良いことと、手に入れやすい点から、アルミ素材を使用すると良いかと思います。
下面をアルミトレーなどの平らな既製品にすると、底面が綺麗に仕上がります。
作品全体がすっぽり入るくらいの形にアルミ箔を成形してかぶせてから、オーブントースターに入れて加熱してください。
この場合は、直接加熱するよりも作品への温度の通りが悪いので、中温くらいの温度で規定時間より少し長めに加熱すると良いかと思います。
人形の頭や胴体、球に近い厚みのある作品の場合は、中まで熱が到達するのに時間がかかるため、あらかじめ石粉粘土などを固めたものを芯材として使用して、それに盛り付ける形で造形すると、内部まで硬化させるまでの時間を短縮できます。
まとめ
ポリマークレイについてその成分や特徴、使用の際のメリット・デメリット、他の粘土との違い、よくある疑問について詳しく説明しました。
日本国内では、まだまだ他の種類の粘土よりもなじみのない粘土ですが、使い方がわかれば、使い勝手も手回しも良い素材ですので、興味がある方は一度試してみると良いかと思います。
フィギュア原型制作やアート・手芸分野など、男性・女性を問わず作品分野が多彩で本格的な粘土材料ですので、既に造形をやっていて次のステップに進みたい場合にも良いかもしれません。
本ブログでは、ポリマークレイ以外にも、様々な粘土材料についての解説や紹介をしていますので、興味のある方は他の記事も併せて読んでいただけると幸いです。
あなたの作品に合った材料選びの参考にしてください。
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